ニュースの概要

ビジネスジャーナルは、米国で広がる「ロンジェビティ福利厚生」を取り上げ、日本の人事のあり方が変わるのかを問うている。ロンジェビティとは、単に寿命を延ばすのでなく、健康で働ける期間を延ばす考え方だ。従来の健康診断は、病気の兆しがある数値を見つけることに強い。一方で、体の内側で静かに進む老化や、不調による仕事の質の低下は見えにくい。記事は、そうした見えない損失に企業がどう向き合うかを論点にしている。米国では、先進的な検査や個別の健康支援を福利厚生に組み込む動きが出ている。日本でも健康経営は定着したが、検診の受診率を追う段階にとどまる企業は多い。次の一手として、この潮流が示唆する方向性を考える。

引用元: 健診だけでは見えない損失…米国発「ロンジェビティ福利厚生」は日本の人事を変えるか(ビジネスジャーナル)

分析・見解

健診の数値が正常でも、老化は進んでいる

健康診断は、血圧や血糖、コレステロールが基準を超えたかどうかを見る仕組みである。つまり「病気に近づいたか」を判定する道具だ。しかし同じ四十五歳でも、体の内側の老い方には大きな個人差がある。喫煙や睡眠不足、慢性的なストレスは、基準値を超える前から細胞レベルで負荷をかける。

ここに、ロンジェビティ福利厚生が入り込む余地がある。たとえばDNAの化学的な目印から推定する「エピジェネティック時計(=遺伝子の使われ方の変化から体の年齢を推し量る検査)」や、ニュージーランドのダニーデン研究に基づく老化の速度の指標がある。これらは、暦の年齢と体の年齢のずれを数値にする。健診が「今の故障」を見るなら、こちらは「故障のしやすさ」を見る発想である。

米国で福利厚生に組み込まれる背景には医療費の構造がある

米国は企業が従業員の医療保険料を大きく負担する。このため、慢性疾患の予防が経営の利益に直結する。保険料の高騰を抑えたい企業が、予防や早期介入に投資する動機は強い。そこへ、腕時計型の端末や指輪型の計測機器が普及し、睡眠や心拍を日常的に集められるようになった。

結果として、年に一度の健診ではなく、毎日の小さな変化を見る設計が現実味を帯びた。さらに、検査費用が下がり、個人向けの検査キットも広がった。技術と費用と制度の三つがそろったことが、米国で先行した理由だと考えられる。

日本では保険制度の違いが追い風にも逆風にもなる

日本は国民皆保険で、企業が負う医療費の構造は米国と異なる。その分、予防投資の採算が見えにくい。一方で、日本は少子高齢化で働き手が減り、五十代以上の就業が増える。個人の体の状態が、そのまま組織の戦力に響く局面だ。

注目すべきは、病気による欠勤よりも「出勤しているのに力を出せない状態」の損失である。睡眠の質の低下や慢性的な疲れで集中力が落ちる現象は、健診に現れない。経済産業省の健康経営の調査でも、この種の生産性低下は欠勤より大きいと推計される例が多い。ここが、日本の人事にとって最も説得力のある入口になる。

測ること自体が新しい不安と差別を生みかねない

万能の仕組みではない。体の年齢の検査は、まだ研究段階の部分があり、数値の意味づけが確立しきっていない。結果が悪い従業員を不利に扱えば、重大な問題になる。個人情報、特に遺伝や体質に近い情報は、慎重な扱いが必須である。

ここで独自の視点を一つ挙げる。ロンジェビティ福利厚生の本当の価値は、検査の精度ではなく、「会社が従業員の長い人生に関心を示す」というメッセージ性にある。数値で管理する制度に見えると反発を招く。本人が主導権を持つ設計が鍵になる。

ビジネスへの影響

まず「測る」前に、守るルールを先に決める

導入を考える企業が最初にやるべきは、検査の選定ではない。取得する情報の範囲、人事評価と完全に切り離す原則、本人以外が結果を見られない仕組みを文書にすることだ。産業医や外部の専門機関に結果を預け、会社には集計した傾向だけが届く形が望ましい。

同意は入社時の一括ではなく、検査のたびに取り直す。拒否しても不利益がないことを、経営者が明言する。この土台がないまま始めると、制度は信頼を壊す。

小さく試し、生産性の指標とセットで効果を見る

全社導入は急がない。希望者を募り、五十人から百人程度の試行から始める。見る指標は、検査値だけでなく、睡眠時間の改善、自己申告の疲労度、業務の質への自己評価も加える。半年から一年かけて、変化を追う。

費用面では、一人あたり年数万円の範囲で収まる設計が現実的だ。運動指導、食事相談、睡眠改善といった介入を同時に用意しないと、「測っただけ」で終わる。結果を行動に結びつける支援まで含めて予算を組みたい。

また、採用や定着の訴求にも使える。長く働ける職場という約束は、五十代の経験者や、将来を考える若手に響く。健康経営の次の差別化として、検討に値する。

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