DunedinPACE指標と老化速度測定
老化ペースを定量化する国際標準指標の実用化動向と市場分析
DunedinPACEとは何か――老化「速度」を測る革新指標
生物学的年齢測定の世界では長らく「現在の年齢」を評価することが主流でしたが、2020年代に入り「老化の速さ」そのものを定量化する技術が急速に普及しています。その中核を担うのが、デューク大学とニュージーランド・オタゴ大学の共同研究チームが開発したDunedinPACE(Pace of Aging Computed from Epigenetics)です。
DunedinPACEは、19の臓器・生理系の機能変化を追跡した縦断研究「ダニーディンコホート」のデータをもとに設計されたエピジェネティック指標です。DNAメチル化パターンから算出されるスコアで、値1.0が集団平均の老化速度を示します。値が1.2であれば年間1.2年分の老化が進んでいることを意味し、0.8であれば同じ暦年齢の平均より20%遅い老化ペースであることを示します。従来のHorvath Clockなど「年齢推定型」指標とは根本的に異なり、「変化の勢い」を捉える点が最大の特徴です。
2026年の市場動向――月間50万件検査を突破
2026年3月時点で、DunedinPACEを用いた老化速度測定は世界で月間50万件の検査数を突破しました。米国市場を中心に年間約120万人が同指標に基づく検査を受診しており、前年比67%増という急成長ぶりです。日本国内でも本サービスを提供する医療機関・クリニックが67施設に拡大し、月間検査件数は5万件を超えています。
価格面でも大きな変化が起きており、サービス開始当初は1回50,000円超が主流でしたが、検査受託ラボ間の競争激化と自動化技術の進歩により、2026年現在では15,000〜25,000円が標準的な価格帯となっています。年間複数回の継続測定を前提とした年間契約プランも登場し、老化速度のトレンド管理を行うユーザー層が定着しつつあります。
主要サービス提供企業の動向
米国ではTruDiagnostic社が2025年末にDunedinPACEを中心としたマルチオミクスパッケージを刷新し、DNA1サンプルからエピジェネティック年齢・老化速度・臓器別老化スコアを同時出力するサービスを提供開始しました。同社の年間売上は推定4,000万ドルに達し、業界トップポジションを維持しています。欧州ではChronomitics社(英)がNHS関連機関との連携プログラムを強化し、糖尿病・循環器疾患の予防介入ツールとしてDunedinPACEの活用を拡大しています。国内では東京・大阪を中心にアンチエイジング専門クリニックが続々と同指標の採用を決定し、2025年度に新規導入した施設数は前年の2.8倍に達しました。
臨床的意義――ライフスタイル介入との組み合わせ効果
DunedinPACEが他の老化指標と一線を画すのは、ライフスタイル介入に対する感度の高さです。2025年に発表された複数の介入研究では、地中海式食事療法を12週間実施した群でDunedinPACEスコアが平均0.07ポイント低下(老化速度が7%改善)した一方、エピジェネティック年齢推定型の指標では有意な変化が検出されませんでした。運動療法との組み合わせではさらに顕著な効果が確認されており、週150分以上の有酸素運動+レジスタンストレーニングを実施したグループでは24週後に平均0.11ポイントの改善が記録されています。
このような感度の高さから、DunedinPACEは予防的介入プログラムのアウトカム指標としての需要も高まっています。個別化治療プログラムを提供する専門クリニックでは、治療開始前・3ヶ月後・6ヶ月後の3時点測定を標準プロトコルとして採用するケースが増加しており、患者の動機づけ向上にも大きく寄与していると報告されています。
企業健康経営への応用
企業向け健康経営ソリューションとしてもDunedinPACEの活用が広がっています。導入企業の事例では、管理職層の平均DunedinPACEスコアを年1回測定し、組織全体の老化速度トレンドを把握する取り組みが始まっています。ある大手製造業(従業員8,000名規模)の試験導入では、生活習慣病ハイリスク群の早期特定に成功し、翌年の医療費が対象グループで平均12%削減されたと報告されました。厚生労働省が推進する「健康経営優良法人」認定制度の評価指標への組み込みについても検討が進んでおり、2027年度基準改定での反映が見込まれています。
技術的課題と今後の展望
DunedinPACEの普及には課題も残されています。第一に、現在のコホートデータが主にニュージーランド系白人集団を基盤としているため、アジア人を含む多様な民族集団での検証が不十分です。日本人集団での参照データ構築を目的としたコホート研究が2025年から始動しており、2028年頃の日本人基準値公表が見込まれます。第二に、測定の再現性について、同一サンプルの再測定でスコアが±0.05ポイント前後変動するケースが報告されており、技術標準化の取り組みが国際的に進められています。
一方で、次世代DunedinPACEとも言われる「DunedinPACE2.0」の開発が進んでいます。より多くのCpGサイトを活用し、臓器別老化速度の分解能を向上させた同指標は、2027年の実用化を目指して臨床検証段階に入っています。老化速度の可視化が個人の健康行動変容を促す強力なツールとして確立されつつある中、DunedinPACEを軸とした市場はさらなる拡大が予測されます。